大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和28年(ラ)300号 決定

よつて按ずるに、本件記録によれば本件は、抗告人において十分の三、相手方両名において十分の七の各共有持分を有する静岡県磐田郡水窪町奥領家字イタシキバ五千五百九十八番山林二十二町九反六畝十三歩(実測七町二反二畝歩)の土地並びに該地上に生育する立木につき、相手方両名から提起した共有不動産分割請求訴訟(静岡地方裁判所浜松支部昭和二十六年(ワ)第二〇三号事件)において昭和二十七年五月二十八日言い渡された「右土地及び立木を競売に付しその売得金を持分に応じて分配すべき」旨確定判決に基き、相手方両名から競売の申立があり、昭和二十八年六月十日午前十時の競売期日において抗告人が前記立木につき、訴外竹内隆が前記土地につき、それぞれ最高価競買申出人となつたところ、原裁判所は同月十五日午前十時の競落期日において競落許可の決定をなさずして同日更に新競売期日及び競落期日を定めて公告したものである。

而して右は原裁判所が本件競落を全く許さない場合に該るとして民事訴訟法第六百七十六条の規定に従い、職権を以て新競売期日を定めたものと推察されるのであるが、かくの如き場合において競落不許の決定を言渡すべきものか否かについては議論の存するところであるが、それは暫く措くとして競売裁判所が右のように理由を附した競落不許の決定を言い渡すことなくして更に新競売期日を定めた場合においては、競落不許に異議のある利害関係人は、右新期日を定めたことにより裁判所が競落不許の決定をしたものとして、これに対し即時抗告を申し立てることができるものと解するを相当とする。

よつて本件競落不許の適否につき按ずるに、本件記録によれば本件不動産は土地及び立木とも抗告人及び相手方等の共有に属するところ、本件競売手続においては、土地及び立木は各別に評価され(記録二六丁及び一二四丁)、競売期日及競落期日公告においてもその最低競売価格は各別に記載され(記録二九丁及び一二五丁、尤も昭和二十八年五月十五日の競売期日及競落期日公告は一括した最低競売価額が記載されているが、右期日は後に変更されている。)、且つ、特に土地及び立木を一括して競売に付する旨の記載がないままに手続が進行して来たのであるが、昭和二十八年六月十日午前十時の競売期日において、抗告人は立木については競落人において競落の時から向う満二ケ年を限りとして生育せしめ得ることの条件で土地と各別に競売すべきことを申し立て相手方両名もこれに同意したため、執行吏はこれに従つて各別に競売手続を遂行し、土地については訴外竹内隆が、立木については抗告人がそれぞれその最低競売価額を上廻る額をもつて最高額競売申出人となり、いずれも所定の保証を立てたので、執行吏は右期日における競売の終局を告知したものである(記録一四四丁不動産競売調書の記載参照)。然るに同年六月十五日附の競売期日及競落期日公告(記録一五〇丁)によれば、土地と立木との分割競落は之を許さずと記載されているところから見れば、原裁判所は本件競売は、本件土地及び立木を分割して競売することができないか或は分割して競売することが法律上の売却条件に牴触し又は不法に右売却条件を変更したと解したもののようである。もとより「立木に関する法律」の適用を受けない樹木の集団たる立木については、その所有者と立木の生育する地盤たる土地の所有者とが同一人であるときは、立木は土地有権の内容をなし、土地所有権とともに処分せらるべきものであるが、我が国古来の慣行は、かかる立木を土地所有権と切り離して、別個の取引の客体となし、立木の所有権を譲渡することが行われているのであつて、取引の当時者が特にその立木所有権を土地から分離せしめたときは、立木は独立の存在を取得するに至るものであつて、この場合には右立木は取引の客体として独立の不動産を構成するものと見るべきである。而して立木が土地所有権と離れて独立の所有権の客体となり得るのは、立木を直ちに伐採する場合のみならず引き続き生育せる場合についても同様であつて、この場合立木の所有権をもつて第三者に対抗せしめるには、立木につきいわゆる「明認方法」をとる必要があるが、かかる明認行為たる公示方法をなした以上、立木の所有者は必ずしも土地につき地上権又は賃借権を設定することを必要としないと解するを相当とする。記録によれば本件立木は四十五年生の杉、檜を主体とし、本件土地に生育する雑木一切を包含するものであることが窺われるのであつて、前記「樹木の集団たる立木」と解せられるから、かかる立木は土地所有権とは別個の客体となし得べきものであつて、取引の当事者の意思によつても別個の所有権の客体となし得ないものではない。以上の理由はただに当事者間における任意売買の場合に限らず競売手続に関してもあてはまるものと解せられるから、本件立木は土地と各別に競売し得るものというべきである。ただ立木の競落人は第三者に対抗し得るためには、立木につきいわゆる明認方法をとるを要するのみである。勿論もと立木の所有者が土地の所有者と同一人であつたものが、競落によりそれぞれ別異の人々の所有に帰した場合には、その所有権者の間において兎角紛争を生ずることがないとは断ぜられないが、このことは任意売買により立木を他に譲渡し、且つ、立木をそのまま引き続き生育させる場合においても同様のことが言えるのである。本件については前記競売期日において共有者たる抗告人及び相手方等との間において、立木の競落人は競落の時から満二ケ年間を限り立木を生育せしめ得ることを条件として土地と立木とを各別に競売することの合意が成立し、執行吏はかかる売却条件の下に競売手続を進めているのであり、本件土地の最高価競買申出人たる竹内隆においてもかかる売却条件を了承の上競売申出をなしたものと解せられるから、同人は本件立木の最高価競買申出人たる抗告人に対し、二年間右立木を土地の上に生育させることを認容したものというべく、従つてかかる条件の下に本件立木を土地と各別に競売することは別段違法となすべき理由がないといわなければならない。

又一般に競売手続においては数個の不動産は各別に競売するのを原則とするものと解せられるが、本件競売手続においては、前記の如く、当初から土地と立木とを各別に評価し、従前の競売期日及競落期日公告には各別に最低競売価額が掲げられているのであるから(記録一一一丁及び一一二丁の不動産評価書によれば本件山林及び立木を一括して評価し,これを最低競売価額として昭和二十八年四月二十一日附競売期日及競落期日公告がなされたが、原裁判所は同年五月十二日附決定をもつて右期日を変更し、更に記録一二四丁の評価補足書により本件土地と立木とを各別に評価せしめた上、同月十五日附をもつて本件競売期日及び競落期日の公告をしていることが記録上明らかであるから、本件競売については土地と立木とを各別に評価しこれをその最低競売価額とする態度が窺われる)、仮に原裁判所が同年六月十五日附による新競売期日及競落期日公告におけるが如く本件土地と立木とを一括して競売することを条件とし、各別に競売することを許さない趣旨で本件競売期日を定めたものであつたとしても、その競売期日の開始に際し、利害関係人(他に利害関係人のあることは記録上認め難い)たる抗告人及び相手方が前記の如き条件で各別競売をなすことの合意をなしたことは、民事訴訟法第六百六十二条にいわゆる売却条件の変更につきすべての利害関係人の合意があつた場合に該当するものというべく、他に法律上の売却条件に牴触し或はこれを変更した事跡の見るべきものなく、而も本件競落期日においては、利害関係人から何等異議の述べられた形跡の認められない本件においては、職権を以ても競落を許さずとする同法第六百七十四条第二項所定の場合に該当しないものといわなければならない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!